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2009年10月18日 (日)

【書評】「日本「半導体」敗戦」 湯之上 隆著

日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス) Book 日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス)

著者:湯之上 隆
販売元:光文社
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久しぶりに日本の半導体について書いた書籍を読みました。

大体の半導体業界について書いた本や論文は、「日本は昔はよかったけど今はだめだ!」のパターンで、読むたび「そうなんだけどね・・」とため息をつきます。

前に取り上げた「NEC凋落の本質」やREITI(経済産業研究所)の研究員のレポートもそうです。

マゾなんですかね。

今回もまぁ、そのパターンの本です。

筆者は元日立のDRAMエンジニアで、早期退職勧告にしたがって会社を辞めて社会科学研究者として半導体業界の評論活動を行っている方です。割と名前はよく拝見します。

この本の主張や洞察に関しては、半導体業界に生息している多数のエンジニアにとって、特に目新しいことではありません。「過剰品質、過剰性能である」、「高コスト体質である」、「低コスト化技術が必要である」、「国プロはうまくいかない」などなど、普段から職場や飲み屋で議論しているようなことです。ただ、それを多数の数値データやインタビューの裏づけで説得力を高めているところが筆者の社会科学者としての仕事なんだろうと思います。

驚きはむしろ、2004年の時点で、半導体メーカーの幹部が「過剰品質、過剰性能」を指摘されて怒り出したというくだりでしょうか。アホじゃないでしょうか。中に出てきた、烈火のごとく怒ったという元社長というのは、故○本さんのことかな。DRAMにこだわりが強かったみたいだし。

ただ、筆者は元DRAMのデバイス・プロセス技術者という経歴からか、どうもデバイス・プロセス技術屋の視点から抜け出せていない気がします。低コストの量産技術が重要なことはもちろんなのですが、過剰品質・過剰性能を改めればそれだけで日本の半導体業界は復活するというのは少々甘い気がします。事実、筆者が低コスト技術志向で絶賛している台湾のDRAMメーカーはリーマンショックで軒並み経営危機に陥りました。そもそも、IDMやファウンダリでまともにビジネスになっているのはサムソン、インテル、TSMCくらいでしょう・・。つまり、低コストで作ればいいということではないのです。

 一方で90年代後半から躍進したQualcom, Broadcomなどファブレスメーカーについての記述が薄いように思います。彼らは投資負担の重い生産設備を持たないということ以上に優れたマーケティングと経営戦略が勝因であるように思います。

 つまり、これから半導体業界で商売するには個別技術よりマーケティングと経営戦略がますます重要になるという他業界では当たり前の話です。

 技術は重要だけど、あくまで何かを実現するための手段、基盤です。今までの半導体デバイス・プロセス技術者は、微細化ロードマップに従ってひたすら微細化することを目標にしていました。その技術をどう使うかを考えるのは他人の仕事とばかりに。これが今の技術者の苦境を招いている部分が大きいと思います。ムーアの法則にキャリアを頼れなくなってきたこの時代には、何を世の中に送り出したいのかを考え、その実現手段として技術を開発するという原点を、半導体技術者も見直すべきだと思います。

 

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コメント

>この本の主張や洞察に関しては、半導体業界に生息している多数のエンジニアにとって、特に目新しいことではありません。「過剰品質、過剰性能である」、「高コスト体質である」、「低コスト化技術が必要である」、「国プロはうまくいかない」などなど、普段から職場や飲み屋で議論しているようなことです。

そうですか?そしてそれが改善されてきているとは
思えません。思ってはいるが、やれない、というのが
正確でしょうか?
安く作る技術と、先端技術を駆使して微細化しまくる
要素技術はまるで違うものだからです。

しかも要素技術なんてメーカ経由で
横流な気が。。表向きは紳士協定でなさそうでも、
ソリューションを求められたらホイホイ
出しそうじゃないですか?
要素技術の強い日本は損してます。

DRAMでの失敗(既存技術延命)
の経験がまるで活かされてない気がします。
日本人は新しい物好きなのでしょうか?

優秀な技術者が次々役職者に昇格していくことで
新米技術者、特に若いプロセスインテグレーター
にコスト意識があるはずないっす。
経験してないですから。

ひとつを解決すればひとつ見えてくる気がします。
まずは一つ目の短工程低コスト技術の確立が
急がれる気がします

マーケティングなんかおっしゃるとおり
日本駄目駄目です やってないっす。
本気でやってる韓国に勝てるわけないです

投稿: ンンン・… ニャンッ! | 2010年1月11日 (月) 12時53分

>>そうですか?そしてそれが改善されてきているとは
思えません。(中略)安く作る技術と、先端技術を駆使して微細化しまくる要素技術はまるで違うものだからです。

はじめまして。同業の技術者さんでしょうか?
会社では、コスト削減について口をすっぱく言われてませんか?
本で書かれていることは、何年も前から経営幹部が繰り返し言っており、生産コスト削減策を半期のキックオフごとに説明していたような気がします。そして、それが劇的に改善されていないのも事実です。詳しくここでは言いませんが、会社の構造的な問題と大幅なリストラはしにくい日本の社会制度、決断が遅い会社の体質、更にはデバイスプロセスが花形だったころに偉くなった幹部のプライドとがあいまっており、抜本解決は非常に難しいと思いました。分かっているのに変えられないところに根深さを感じ、私は路線変更をしました。
 日本のメーカーは、ファブライトもしくはファブレスに移行しようとしているように見えますね。メモリからロジックへの転向もそうですが、大体アメリカの15年遅れくらいを追随しているように見えます。こんなやり方がうまくいくかどうかもアレですが、この動きを踏まえると今更「短納期低コスト製造」を強調するより(もちろん大事ですが)、ファブレスのキーポイントとなるマーケと決断スピードの重要性をもっと打ち出すべきじゃないでしょうか。
 もし、ンンン・… ニャンッ!様がこの本の中に出てくるような大手に所属するエンジニアでしたら、是非会社を内部から変えていってください

投稿: ちぶぞう | 2010年1月15日 (金) 01時59分

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