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2008年7月30日 (水)

創造か改良か 元花王役員 今村哲也氏の講演を聞いて

 元花王の執行役員の今村哲也氏の講演を聞きました。今村氏は、花王でフロッピーディスク事業を始め、エコナ油、ヘルシア緑茶などの新規事業を次々と立ち上げ、一方でフロッピーディスク事業の撤退も経験した、国内のMOTでは結構有名な方です。

 花王といえば、国内最大の日用品メーカー。その執行役員といえば、知的なエリート然とした人をイメージしますが、今村さんはどっちかいうと、町工場のおやじのようなべらんめえな雰囲気で、ちょっと親しみを感じました(笑

 さて、講演では、まずFDでの経験から価格しか価値がないような事業は必ずダメになるという話が出ました。ハイテク業界の哀しさで、当初一枚1000円で売れてた3.5インチFDが、10年後には、18円でも赤字になってしまったということです。こういう傾向は、ストレージやメモリの特徴ですね。現在の日本のストレージ及びメモリ業界では、日立のHDDはIBMを買収してもいまだ利益が上がらず、DRAMは日本では一社に収斂し、フラッシュは東芝が命運をかけて大規模投資という状態です。どこも、安定利益を出す構造にはいたっていません。これは、たゆまざる技術革新も、結局容量とビット単価という価値に収斂してしまうからだと思います。かといって、メモリで下手に付加価値を出そうとすると、昔のシステムLSI事業のように多品種少量生産となってかえって利益が出なくなる恐れもあるので、難しいですねえ。

 また、技術マネージメントは、事業運営と同じくらい大切で、両方が出来ないと絶対に企業が生き残れないと強調していました。印象に残ったのは、技術マネージメントというのも、MBA的な数値管理とか目標管理のような方法論を指しているわけではなく、トップが目利きして決断し、言いだしっぺに全部任せてしまい、後は混沌とした中から話し合いやぶつかり合いをして画期的な商品を創造していくというようなことを言っていたことです。質疑応答で、しつこく「目標管理は?」とか、「撤退の指標は?」とか聞いている人がいたのですが、「そんなもんない!」と全否定してたのが印象的でした(笑 これは、なんも考えていないということではなく、逆に普遍化した数値管理とか、業績管理の方法論に頼ってしまうと、個々の案件の本質を見なくなってしまうということだと思います。創造というのはカオスから生まれるわけで、喧々諤々の議論やぶつかり合いから生まれていくということを行っているんだろうなあと思いました。その中で、技術者の暴走を防げているのは、花王は現場と研究と経営の距離が非常に近いことがあるんだろうな、と感じました。花王は最終消費者へ製品を送り出しているわけで、その消費者の声が最優先で社内に反映される仕組みを整えているそうです。

 これって、いいなあと思いました。ただでさえ半導体は部品屋で最終消費者からは遠いのですが、さらに自分のいる部署は社内の設計基盤を作るところであり、最終消費者からは何段階も離れたところにいます。それは、特定技術を集中して磨ける反面、マーケットに鈍くなってしまうようなところがあるなあと感じました。

 さらに、新規事業をいくつも立ち上げた今村氏が強調していたのは、「改良型」技術を開発していたのではダメだ、「創造型」技術を開発せよ、ということでした。創造型というのは、今までなかったマーケットを作るということ、改良型というのは既存の商品の延長上にあるものをつくるということです。

 食品、化粧品など多種多様な日用品を売っている花王は、独創的ということにひときわ敏感でなくてはいけないのでしょう。一方で、半導体業界には、ながらくロードマップというものがあります。トランジスタのゲート長や、集積度をはじめとして、様々な技術や製品に適用される未来予測ですね。このロードマップを参照して、材料メーカー、装置メーカーも巻き込んで業界一体となって技術革新に突き進めた半面、ロードマップで予想できる範囲内でしか技術を考えないような体質にもなっています。体質が「改良型」になりやすいんですね。最近は「脱ムーア」も言われ始め、「改良型」技術革新が壁に突き当たってきてます。「創造型」が必要になってきているんですが、やはり過去の体質が残っており、社内でこれを言い出すのは非常に厳しいと思います。やんわりと上の人に否定されちゃったりしてね。

 でも、改良型って、ある意味楽だけど、あんまり面白くないんですよね。

 今村さんは、てらいなく「花王」の会社自慢をするんですよ。ソニーの人も、自社への愛情をひしひしと感じさせます。創造型の企業って、自分の会社好きな人が多いですね。

 それって、いいなあと思っちゃいました。

Book ガツンと事業をつくれ!―花王で学んだ研究開発精神

著者:今村 哲也
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