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2008年7月18日 (金)

ソニーをダメにした「普通」という病 横田宏信著

先日、勤務している会社のグループの社長の講演を聞きました。社内のスピーカーを通して会社のビジョンについて熱く語っているのですが、なぜか全然伝わってこない。回りの同僚も、まじめに聞いている人は一人もおりませんでした。どうしたもんでしょう?

さて、今回読んだのはこの本です。

ソニーをダメにした「普通」という病 Book ソニーをダメにした「普通」という病

著者:横田 宏信
販売元:ゴマブックス

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そんなにソニー本が好きなのかよ!と突っ込まれそうですが、この本は、他の方のブログやアマゾンでの書評が好評だったので、興味を引かれて読んでみました。難しい言葉は一切使っておらず、読みやすくてさっと読めましたです。

著者の横田さんは、ソニーの資材部門で13年働いたあと、ベンチャー起業→外資コンサルと渡り、キャップスジェミニのVPまで上り詰めた後、今はコンサル会社を経営しているという、面白い経歴のコンサルタントの方です。MBAなどに頼らずに事業会社から外資コンサルのトップまで上り詰めただけのことはあって、その辺のコンサルが好きそうな管理会計、内部統制などの流行りモノ経営手法を一刀両断して、自分の言葉で会社やビジネスについて語っているのが面白い。

「自分の人生の浪費」、「他人の人生の浪費」は悪であり、それゆえ経営は合理性が大切であり、内輪の論理で無駄な時間を浪費するのは、結局経営効率を落とすという観点は面白い。「本来、世界は働くことをただ楽しむように出来ている」という言葉は、筆者の労働観を端的に現していると思います。マルクスの労働者は搾取されるもの、という観点と対極をなしていて面白い。労働そのものに悦びを見出す伝統的な日本の労働観に近いというか。派遣労働者や請負、下請けなどの蟹工船のような労働環境は、何かがゆがんでいるのか、それとも、この筆者のような知的労働者と、マルクスの想定しているブルーカラーは労働に対する立場は本質的に違うのか。しかし、筆者が英国で触れたブルーカラーは誇りに満ちていたという話から考えると、何かがゆがんでるという解釈が正しそうな気もする。

技術者として印象に残ったのは、「機能価値」と、「使用価値」のくだりですね。あれが出来る、これが出来るというのは「機能価値」。それをこう使うとユーザーにはこんなメリットがあるというんが「使用価値」。技術者は、「機能価値」=「使用価値」と考えがち。でも、ただいま絶賛話題の中の「iPHONE」や、「iPOD」などの大ヒットしたApple製品は、実は「引き算」の製品なんですよね。iPODでは、ラジオは聞けないし、曲名の編集もできない。iPHONEも既存の携帯では必須と思われてきた機能のいくつかは出来ない。でも、どの製品も想定ユーザーを楽しませるには何が必要かを考え抜き、それ以外を思い切って取り除いたからこんな斬新な製品が出来たんですね。別に最先端の独自テクノロジーを採用したわけではない。ソニーがcellを開発したとき、面白い挑戦だと思いつつもなにか違和感を感じたのは、この「機能価値」ばかりが前面に出て「使用価値」が感じられなかったからだと思います。アップルが、往年のソニーのように感じられるのは、ユーザー体験という「使用価値」に邪魔なものは思い切って取り除く姿勢が新鮮に感じられるからでしょう。

技術者は、機能を開発する立場なので、どうしても「機能価値」に関心が集中してしまいますが、「せっかく開発したけど、使わない!」という判断もできるようにしたいと思います。

ただ、高学歴者は「機能価値」ばかりで使えないというのは・・・筆者も慶応出身で、十分高学歴だと思うのだが(笑。でも、高学歴で大企業出身が使えない、そしてコンサルや金融は社会の間接部門だからでかい顔するな、とことごとく自己否定されているのは、面白いですね。

筆者のビジネスに関する考え方で共感したのは、「ビジネスとはいかに本質に近づき、その後いかに本質の近くにとどまるかの勝負である」というところです。そして、経営者の仕事とは、「お金を活かす」ことではなくて、「人を活かす」ことであると。これらは僕の心には非常に響きました。右肩上がりの経済成長が終わり、企業が利益を出すことが非常に難しくなった現在、世の中にいろいろな経営手法、経営理論が満ちており、さらにそれを効率よく習得できるとしてMBAがエリートの切符のように言われております。また、それら理論を駆使して、あたかも人を部品のように扱い、いかに低コストで「効率よく」動かして利益を得るかが経営だと一般には思われております。さらに、お金を右から左に動かして巨額の利益を得る投資銀行などが花形職業として世間の注目を浴びております。こんな世の中で、筆者の視点は、新鮮でした。本当は、これが真っ当な考え方なんですけどね。ビジネスや、経営というのは、本質を自分の力で考え抜くことが一番大事で、世間に流布している知識を一生懸命習得して真似っこすることではないと。組織論として、「人が人の上に人を置くという無謀さを無謀と知ることである」というのもいいと思いました。

 筆者の観点として、経営とは人の本質を追求するものであり、組織はその認識の上に立たねばならないというものがあると思います。人間中心主義ですね。コンサルなのに、いわゆる「米国かぶれ」のコンサルとはかなり言うことが違っていて好感できます。「コンサルや金融は所詮社会の間接部門である」っていう自己認識とかね(笑)。機会があったら是非お話を伺いたいですね。

 僕は、世の中の経営理論や経営知識というものを知らなくていいということでは決してないと思います。もちろん思考の材料として知識は大切。ただ、あくまで材料。仕入れた知識は、一旦否定してみるべきものだと思います。意識的に仕入れた知識から距離を置き、盲従を避ける。そして、それらを組み合わせ、自分なりに思考し、試行錯誤し、自分で体系をくみ上げるべきものだと思います。これは技術開発でも同じで、人によっては、論文なんか読むな!といいます。これは、論文ばかり読んで、それに盲従するだけになるなら、そんなの読まずに自分で考え抜くほうがよほど大事だということです。まあ、実際には論文を一切読まずに技術開発など不可能ですがね。

筆者がソニーについて触れた部分は、「技術空洞」や、「本社六階」など他のソニー本と大体筋は会ってますね。本社の官僚化や、数値管理を入れたことによる活力の低下など。不思議なのは、「ソニーの遺伝子をもっとも受け継ぐのは技術者である」というのに、ソニー本を出してソニーについて饒舌に語るのはみな事務系の人たちばかりなんですね。なんでですかね。でも、なんだかんだ批判してても、ソニーに対して皆誇りや愛着が感じられるというのはなんともうらやましいですね。

うん。自分の生き方も背中を押されるような、いい本でした。

さて、冒頭の話ですが、なんで社長の話が心に響かないか。これは、この本でいうところの「優等生」っぽいからなんですね。うちの会社はまじめな「優等生」はとても多く、世間で話題になっている手法はすぐにあれこれと入れます。かつては「ベンチャー制度」、「成果主義」、社内公募制度、カンパニー制、ISO取得、そして、CSR、SOX法対応、環境経営、etcetc... もちろん、社外コンサルもよく入れて「構造改革」をやっています。でも、ここ10年以上、一向に会社が成長しないのは、結局経営者を含め皆一生懸命勉強はするんだけど、自分の頭で考え抜くということを、どこか手抜きしているからじゃないかと思います。この社長も、「ビジョン」や「理念」は会社をまとめるのに大事だね、という知識を仕入れ、一生懸命ビジョンを作ったんだと思いますが、なんだか空虚なのは、この会社が長い伝統で培ってきた風土のようなものをどこか否定しようとしているからじゃないでしょうか。確かにその「風土」が成長を阻害している部分もあるかもしれません。しかし、よくも悪くも会社の個性なわけで、そこを土台にしたシンプルな「理念」や「ビジョン」が大事なんじゃないでしょうか。

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コメント

ちぶぞうさん、この本の著者の横田です。
この書評、大変嬉しく拝見しました。
(何度も読み返してしまいました)
少しはお役に立てたようで、幸せに思います。
                 横田宏信

投稿: 横田宏信 | 2008年7月19日 (土) 10時56分

>横田さん
著者じきじきのコメントありがとうございます!happy02
横田さんが比較的まめに書評を見て回っているようなので、気合を入れて長くなってしまいました(笑
電機業界の方は、問題意識が共通していることが多く、共感できる点が多いなと感じます。
機会があったら、講演などもお聞きしたく思います!

投稿: ちぶぞう | 2008年7月19日 (土) 12時46分

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