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2008年7月30日 (水)

創造か改良か 元花王役員 今村哲也氏の講演を聞いて

 元花王の執行役員の今村哲也氏の講演を聞きました。今村氏は、花王でフロッピーディスク事業を始め、エコナ油、ヘルシア緑茶などの新規事業を次々と立ち上げ、一方でフロッピーディスク事業の撤退も経験した、国内のMOTでは結構有名な方です。

 花王といえば、国内最大の日用品メーカー。その執行役員といえば、知的なエリート然とした人をイメージしますが、今村さんはどっちかいうと、町工場のおやじのようなべらんめえな雰囲気で、ちょっと親しみを感じました(笑

 さて、講演では、まずFDでの経験から価格しか価値がないような事業は必ずダメになるという話が出ました。ハイテク業界の哀しさで、当初一枚1000円で売れてた3.5インチFDが、10年後には、18円でも赤字になってしまったということです。こういう傾向は、ストレージやメモリの特徴ですね。現在の日本のストレージ及びメモリ業界では、日立のHDDはIBMを買収してもいまだ利益が上がらず、DRAMは日本では一社に収斂し、フラッシュは東芝が命運をかけて大規模投資という状態です。どこも、安定利益を出す構造にはいたっていません。これは、たゆまざる技術革新も、結局容量とビット単価という価値に収斂してしまうからだと思います。かといって、メモリで下手に付加価値を出そうとすると、昔のシステムLSI事業のように多品種少量生産となってかえって利益が出なくなる恐れもあるので、難しいですねえ。

 また、技術マネージメントは、事業運営と同じくらい大切で、両方が出来ないと絶対に企業が生き残れないと強調していました。印象に残ったのは、技術マネージメントというのも、MBA的な数値管理とか目標管理のような方法論を指しているわけではなく、トップが目利きして決断し、言いだしっぺに全部任せてしまい、後は混沌とした中から話し合いやぶつかり合いをして画期的な商品を創造していくというようなことを言っていたことです。質疑応答で、しつこく「目標管理は?」とか、「撤退の指標は?」とか聞いている人がいたのですが、「そんなもんない!」と全否定してたのが印象的でした(笑 これは、なんも考えていないということではなく、逆に普遍化した数値管理とか、業績管理の方法論に頼ってしまうと、個々の案件の本質を見なくなってしまうということだと思います。創造というのはカオスから生まれるわけで、喧々諤々の議論やぶつかり合いから生まれていくということを行っているんだろうなあと思いました。その中で、技術者の暴走を防げているのは、花王は現場と研究と経営の距離が非常に近いことがあるんだろうな、と感じました。花王は最終消費者へ製品を送り出しているわけで、その消費者の声が最優先で社内に反映される仕組みを整えているそうです。

 これって、いいなあと思いました。ただでさえ半導体は部品屋で最終消費者からは遠いのですが、さらに自分のいる部署は社内の設計基盤を作るところであり、最終消費者からは何段階も離れたところにいます。それは、特定技術を集中して磨ける反面、マーケットに鈍くなってしまうようなところがあるなあと感じました。

 さらに、新規事業をいくつも立ち上げた今村氏が強調していたのは、「改良型」技術を開発していたのではダメだ、「創造型」技術を開発せよ、ということでした。創造型というのは、今までなかったマーケットを作るということ、改良型というのは既存の商品の延長上にあるものをつくるということです。

 食品、化粧品など多種多様な日用品を売っている花王は、独創的ということにひときわ敏感でなくてはいけないのでしょう。一方で、半導体業界には、ながらくロードマップというものがあります。トランジスタのゲート長や、集積度をはじめとして、様々な技術や製品に適用される未来予測ですね。このロードマップを参照して、材料メーカー、装置メーカーも巻き込んで業界一体となって技術革新に突き進めた半面、ロードマップで予想できる範囲内でしか技術を考えないような体質にもなっています。体質が「改良型」になりやすいんですね。最近は「脱ムーア」も言われ始め、「改良型」技術革新が壁に突き当たってきてます。「創造型」が必要になってきているんですが、やはり過去の体質が残っており、社内でこれを言い出すのは非常に厳しいと思います。やんわりと上の人に否定されちゃったりしてね。

 でも、改良型って、ある意味楽だけど、あんまり面白くないんですよね。

 今村さんは、てらいなく「花王」の会社自慢をするんですよ。ソニーの人も、自社への愛情をひしひしと感じさせます。創造型の企業って、自分の会社好きな人が多いですね。

 それって、いいなあと思っちゃいました。

Book ガツンと事業をつくれ!―花王で学んだ研究開発精神

著者:今村 哲也
販売元:生産性出版
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2008年7月28日 (月)

ソニーのノイズキャンセリングヘッドフォンを初体験

 先日、大学同期の結婚パーティがあり、何年かぶりに同期と会いました。貫禄は多少付いても、みんな相変わらずのおバカっぷりで安心したりしなかったり。

 その中にソニーに勤めているのがいて、自社のノイズキャンセリング機能つきのヘッドフォンを持ってきました。

多分、これ。

Mdrnc500d MDR-NC500D(ソニーのwebsiteより)

ノイズキャンセリング機能つきヘッドフォンというのは初体験だったわけです。

「これびびるで~」とかいうので、試しに耳につけてみました。音楽とか流さないで、ヘッドフォンだけです。ノイズキャンセルのスイッチがあり、それを入れると、「ピッ」と音がして、周りの猥雑な喧騒が、

ピシっ

と静まり、思わず

おおおおおお!!??

と声が出てしまいました。

かなりびっくりしますね、これ。騒音の逆位相をぶつけてフィルタリングしているんでしょうが、人の話し声くらいの音域はちゃんとスルーしていて、面白い。

今のオーディオ技術ってすごいですねー。

彼の話を聞いていると、ソニー本を書いた人たちのようにそこはかとなく自社への誇りが感じられて正直うらやましい。

やはり提案型の商品を作っている会社ならではの活力があるんでしょうね。

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2008年7月26日 (土)

【技術参考書】最新VLSIの基礎 Yuan Taur/Tak H.Ning著

今回は、半導体物理の教科書、タウア・ニンの最新VLSIの基礎です。

タウア・ニン 最新VLSIの基礎 Book タウア・ニン 最新VLSIの基礎

著者:Yuan Taur,Tak H. Ning
販売元:丸善
Amazon.co.jpで詳細を確認する

Fundamentals of Modern Vlsi Devices Book Fundamentals of Modern Vlsi Devices

著者:Yuan Taur
販売元:Cambridge Univ Pr (Txp)
Amazon.co.jpで詳細を確認する

半導体デバイスの教科書としては古典的名著として、SZE氏のものが有名ですが、

半導体デバイス―基礎理論とプロセス技術 Book 半導体デバイス―基礎理論とプロセス技術

著者:S.M. ジィー
販売元:産業図書
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こちらは、Sze氏のものよりかなり後に書かれてて(1997年)その分、比較的新しいCMOSの理論が取り入れられています。会社にCMOSデバイス技術者として入社したとき、ベテランの先輩からこの本を薦められたので、原著と和訳、両方読みました^^;

内容としては、MOSデバイスの基礎理論に重きを置かれており、バイポーラデバイスの項はかなりのページは割かれているものの従属的な扱いの印象があります。まあ、CMOS全盛の世の中ですから、当然ですが。

pn接合などのデバイス物理の基礎から始まって、長チャネルMOSFET、短チャネルMOSFET、CMOSデバイス設計など、かなりデバイスの基礎理論が丁寧に説明されています。前提知識は、大学初等程度の数学と物理の知識で、全部読み通せばまったくの初心者でもかなり深くMOSデバイスの基礎理論を理解できるようになると思います。デバイス技術者を志す人にはお勧めです。(バイポーラの章は軽く目を通しただけなので、ノーコメント^^;)

反面、CMOS性能因子の項では、ロジック素子の遅延でしか議論しておらず、MOSデバイスの雑音には触れられていないなど、ロジック向けの性能にしか目を向けておりません。デバイスモデルとの関連付けもないので、アナログ回路設計者がデバイス物理について理解を深めたいなら、下記のようなMOSデバイスのモデリングの本を読んだほういいかもしれません。

CMOSモデリング技術―SPICE用コンパクトモデリングの理論と実践 Book CMOSモデリング技術―SPICE用コンパクトモデリングの理論と実践

著者:青木 均,嶌末 政憲,川原 康雄
販売元:丸善
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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2008年7月24日 (木)

今時のJKは神

「渋谷女子高生に直撃 私がエンジニアを好きなわけ」(TECH総研)

-みく&くるみ(高一)の場合-

―エンジニアって……(エンジニアについての説明) 
みく :カッコいいんじゃない?
くるみ : 頭良さそうだから、顔もいいっていうイメージ。

-ほのか&みさき(高2)の場合-
―エンジニアってイメージできる?
ほのか :なんとなく。頭良さそうだよね。難しそうな仕事だからすごそう。
みさき :むしろどこが悪いのかわかんない。ぜひぜひ付き合ってって感じ!

-りな&あさみ(高一)の場合
りな:私は機械オンチだから、エンジニアの人にそばにいてほしいな
あさみ:エンジニアは外見じゃなくて、中身で勝負ってことですよ!

ままま、まじで??
理系男子って、マニアックな一部女子のみにしか受けないもんだと思ってたら、絵に描いたようないまどきのギャルがこんな好意的な感想をくれるとは・・時代は変わった・・(ノД`)
あと15年遅く生まれてれば・・・。

でも、共通の必須ポイントとしては、
・オタクっぽくないこと
・おしゃれなこと
ですがね。

オサレ・・・・orz

このインタビューの2番目のギャルの回答がおもしろい。

Jk

――― エンジニアって、どういう人かわかる?
みく:わかんなーい。わかる?

くるみ:私がわかるわけなくない(笑)!?

(中略)

――― エンジニアのイメージをよりアップさせるには?
みく:頭いいんだから、スーツでバシッと決めたほうがいいんじゃん!?

くるみ:家に引きこもってるときも、コンビニ行くときもスーツみたいな

みく:飲み会とかスーツで来られたらヤバイよね。

くるみ:スーツにダテめがねっていう、まんま賢いイメージでOKでしょ。
みく:私、青のワイシャツがヤバイ。超萌える(笑)。

くるみ :わかるわかる! 爽やかな感じいいよね。

みく :もうさ、賢くて爽やかなイメージで固めちゃえばいいんだよ!

くるみ :あとエンジニアって言葉が固いんだよね。

みく :マルキューみたいな名前にしちゃえばいいんじゃない!?

なんだよマルキューって!!

いつの時代もJKは最強です。

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日本型経営、良いか悪いか 

日本型経営、良いか悪いか 二つの白書「閣内不一致」(asahi.com)

http://www.asahi.com/business/update/0723/TKY200807230009.html

 厚生労働省が22日発表した労働経済白書は、長期雇用など日本型雇用慣行について、生産性の向上につながると再評価した。一方、内閣府が同日発表した経済財政白書では、終身雇用を中心とする日本企業のリスクを取らない体質が低成長の一因だと批判しており、長期雇用の評価を巡り「閣内不一致」とも言える対照的な内容となった。

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対照的というか、なんと言うか、どちらもいわゆる「年功序列、終身雇用」のいわゆる”日本型経営”の別の面を指摘しているだけじゃなかろうか。

厚生労働省は労働者の立場から見ているし、経済産業省は経営者の立場から見ますからねえ。

 まあ、労働者の立場から見たら、安定雇用が期待できる「終身雇用」を評価するのは当然だし、経営側から見たら、人件費が高くつく経営形態に批判的なのは当然か。

 しかし、”日本型”経営ネエ・・・。そもそも今の時代、そうやって企業の経営スタイルを一くくりにする意味があるんだろうか。

 「年功序列・終身雇用」型経営は、市場が右肩上がりに成長し、人口構成が若年層に偏っていた高度成長期の日本だから広く普及した経営スタイルなのはいうまでもないんだけど、今は国内市場は成熟し、企業が成長を続けようと思ったらグローバルで競争をしないといけない。今までのいわゆる”日本型”経営ではやっていけなくなるケースが多くなってきたわけです。もちろん、終身雇用型の経営もよい面がたくさんあるでしょう。成果主義で痛い目見た会社もあるでしょう。でも、少なくとも時代に合わせて企業の形も変えていかなくてはならない。じゃあ、どんな経営手法が最適なのか。これは、もう既存の型を当てはめればいいのではなく、それぞれの経営者自身が自分の頭でしっかり考えて築いていかなくてはならないんじゃないでしょうか。”米国型”経営とか”日本型”経営があるんではなく、その会社の形にあった経営手法というのを見つけていかなくてはならないんだと思います。

 ”米国””日本””年功序列””成果主義”と色分けしたり、コンサルが提唱するような流行の経営手法に乗っかるのは楽でしょうけどね。

しかし、役所がいまさらこんな白書を出すというのはどういう意味があるんでしょうかね。

日本企業の経営スタイルに行政指導でもする気でしょうか。

商売を知らない役人が、民間企業の経営に口を出すことだけは止めて欲しいと思います。

 

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2008年7月21日 (月)

崖の上のポニョ

ぽーにょぽーにょぽにょさかなのこ・・・

一度聞くと忘れられない「崖の上のポニョ」の主題歌ですが、相方と見てまいりました。

Ponyo_02

相方のいわく・・・・

ホラー映画だ

えーと・・・・・

多分、こんな感想を持つのはうちの相方くらいだと思うので、みなさん安心して見てきてください。

・・・いや、ウェブサイトの作品紹介の

誰もが意識下深くに持つ内なる海と、波立つ外なる海洋が通じあう。

のくだりを見るに、案外本質突いてるかな・・・

ぱーくぱっくちゅぎゅ!ぱーくぱっくちゅぎゅ!

僕的な感想は、駿監督は、小さい子供のしぐさや心理描写が本当にうまいなと。

荒唐無稽な設定でも、登場人物の心理描写で引き込まれてしまう。

絵柄もストーリーも、今までの宮崎作品とはだいぶ趣が違うし、対象年齢も小学校低学年くらいを念頭においているのかな?という感じでしたが、これはこれでいいかな。

あとは、もう主題歌の手柄でしょう。頭の中で主題歌が回り始めてとまらなくなると、「見に行かなきゃ・・・」と思っちゃう。一種の催眠??もう、あの歌を選んだ時点で、駿さんの勝ち。

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2008年7月19日 (土)

野茂引退

日本人大リーガーのパイオニアであり、日米両方で卓越した成績を上げた野茂英雄選手が、ついに引退を表明したようですね。

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野茂引退:最後までスタイル貫き(毎日.jp)

http://mainichi.jp/enta/sports/baseball/news/20080718k0000m050158000c.html

日米で201勝を上げましたが、右ひじを2回手術したあとは、球威が落ち、ロイヤルズを自由契約になった後は、獲得に乗り出す球団もなく、引退を決意したということです。楽天にも打診したが、断られたという話もあり、だいぶ力は衰えたんでしょう・・・。野茂ほどの選手でも怪我には勝てなかったみたいですね。

いまや大リーグに行く日本人は珍しくないですが、野茂は別格でしたねー。
おいらが大学生の浮かれまくっているころに、野茂は大リーグで投げ始めたわけですが、日本人が大リーグで通用するなんて夢にも思っていなかった時代で(そう考えるとだいぶ昔ダナ・・)、ハチ公交差点のでかいディスプレイで野茂がドジャースで初めて投げるのを見たとき、「ついに日本人が大リーガーに!」って興奮した記憶があるなー。 そのころは、野茂が登板というのが、ひとつのニュースとして毎度流れていたほどですからね。

野茂がそこで活躍したおかげで、大リーグが日本人選手を認めたし、日本人も大リーグ行きやすくなったんだよねー。パイオニアってすごいよな。

そっけないインタビューのパイオニアでもあったけど(笑

野茂がえらいと思うのは、個人で社会人野球クラブを作ってノンプロの受け皿を作ったり、エイズ撲滅の基金を作ったり、単に自分の野球のみを見るのでなく、広く社会を見渡しながら、必要なことは何かを考えていることですね。

昔の語録を見ると、その慧眼に感心させられます。

http://www.nikkansports.com/baseball/mlb/news/f-bb-tp2-20080717-384953.html

◆「僕は、花があるうちにやめるんじゃなく、落ちぶれてボロボロになっても投げ続けようと決めました」(90年10月26日、ルーキーで新人王、MVPなど8冠に輝き)

◆「メジャーは見に来なければ分からない。選手ならば、やってみなければ分からない。日本からもっと選手が来て、大リーグでプレーすることが当たり前のようになればいい」(96年1月23日、ナ・リーグ新人王受賞会見で)

 ◆「金額よりやることに意義がある。チャリティーには何らかの形で貢献したい」(95年8月17日、エイズ撲滅の「K基金」を設立し)

◆「才能ある選手にプレーする場を提供したい。未来のプロ野球選手、メジャーリーガーを数多く育てて野球界を発展させたい」(04年1月22日、NOMOベースボールクラブのユニホームお披露目の席で)

野茂の真骨頂は華々しい戦績より、その後のマイナーに落ちてもあきらめずにがんばりぬく態度だと思います。どんな状況になっても、必ずしも希望が見えなくても、ひたすら信じた道を進んでいくというのは、見ている人にも勇気をくれるもんだなあとおもいました。

あれだけやり抜いて、引退に際してまだ「悔いが残る」っていうのがいいですね。

かっこいいなあ。かっこいい生き方っていいですね。

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2008年7月18日 (金)

ソニーをダメにした「普通」という病 横田宏信著

先日、勤務している会社のグループの社長の講演を聞きました。社内のスピーカーを通して会社のビジョンについて熱く語っているのですが、なぜか全然伝わってこない。回りの同僚も、まじめに聞いている人は一人もおりませんでした。どうしたもんでしょう?

さて、今回読んだのはこの本です。

ソニーをダメにした「普通」という病 Book ソニーをダメにした「普通」という病

著者:横田 宏信
販売元:ゴマブックス

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そんなにソニー本が好きなのかよ!と突っ込まれそうですが、この本は、他の方のブログやアマゾンでの書評が好評だったので、興味を引かれて読んでみました。難しい言葉は一切使っておらず、読みやすくてさっと読めましたです。

著者の横田さんは、ソニーの資材部門で13年働いたあと、ベンチャー起業→外資コンサルと渡り、キャップスジェミニのVPまで上り詰めた後、今はコンサル会社を経営しているという、面白い経歴のコンサルタントの方です。MBAなどに頼らずに事業会社から外資コンサルのトップまで上り詰めただけのことはあって、その辺のコンサルが好きそうな管理会計、内部統制などの流行りモノ経営手法を一刀両断して、自分の言葉で会社やビジネスについて語っているのが面白い。

「自分の人生の浪費」、「他人の人生の浪費」は悪であり、それゆえ経営は合理性が大切であり、内輪の論理で無駄な時間を浪費するのは、結局経営効率を落とすという観点は面白い。「本来、世界は働くことをただ楽しむように出来ている」という言葉は、筆者の労働観を端的に現していると思います。マルクスの労働者は搾取されるもの、という観点と対極をなしていて面白い。労働そのものに悦びを見出す伝統的な日本の労働観に近いというか。派遣労働者や請負、下請けなどの蟹工船のような労働環境は、何かがゆがんでいるのか、それとも、この筆者のような知的労働者と、マルクスの想定しているブルーカラーは労働に対する立場は本質的に違うのか。しかし、筆者が英国で触れたブルーカラーは誇りに満ちていたという話から考えると、何かがゆがんでるという解釈が正しそうな気もする。

技術者として印象に残ったのは、「機能価値」と、「使用価値」のくだりですね。あれが出来る、これが出来るというのは「機能価値」。それをこう使うとユーザーにはこんなメリットがあるというんが「使用価値」。技術者は、「機能価値」=「使用価値」と考えがち。でも、ただいま絶賛話題の中の「iPHONE」や、「iPOD」などの大ヒットしたApple製品は、実は「引き算」の製品なんですよね。iPODでは、ラジオは聞けないし、曲名の編集もできない。iPHONEも既存の携帯では必須と思われてきた機能のいくつかは出来ない。でも、どの製品も想定ユーザーを楽しませるには何が必要かを考え抜き、それ以外を思い切って取り除いたからこんな斬新な製品が出来たんですね。別に最先端の独自テクノロジーを採用したわけではない。ソニーがcellを開発したとき、面白い挑戦だと思いつつもなにか違和感を感じたのは、この「機能価値」ばかりが前面に出て「使用価値」が感じられなかったからだと思います。アップルが、往年のソニーのように感じられるのは、ユーザー体験という「使用価値」に邪魔なものは思い切って取り除く姿勢が新鮮に感じられるからでしょう。

技術者は、機能を開発する立場なので、どうしても「機能価値」に関心が集中してしまいますが、「せっかく開発したけど、使わない!」という判断もできるようにしたいと思います。

ただ、高学歴者は「機能価値」ばかりで使えないというのは・・・筆者も慶応出身で、十分高学歴だと思うのだが(笑。でも、高学歴で大企業出身が使えない、そしてコンサルや金融は社会の間接部門だからでかい顔するな、とことごとく自己否定されているのは、面白いですね。

筆者のビジネスに関する考え方で共感したのは、「ビジネスとはいかに本質に近づき、その後いかに本質の近くにとどまるかの勝負である」というところです。そして、経営者の仕事とは、「お金を活かす」ことではなくて、「人を活かす」ことであると。これらは僕の心には非常に響きました。右肩上がりの経済成長が終わり、企業が利益を出すことが非常に難しくなった現在、世の中にいろいろな経営手法、経営理論が満ちており、さらにそれを効率よく習得できるとしてMBAがエリートの切符のように言われております。また、それら理論を駆使して、あたかも人を部品のように扱い、いかに低コストで「効率よく」動かして利益を得るかが経営だと一般には思われております。さらに、お金を右から左に動かして巨額の利益を得る投資銀行などが花形職業として世間の注目を浴びております。こんな世の中で、筆者の視点は、新鮮でした。本当は、これが真っ当な考え方なんですけどね。ビジネスや、経営というのは、本質を自分の力で考え抜くことが一番大事で、世間に流布している知識を一生懸命習得して真似っこすることではないと。組織論として、「人が人の上に人を置くという無謀さを無謀と知ることである」というのもいいと思いました。

 筆者の観点として、経営とは人の本質を追求するものであり、組織はその認識の上に立たねばならないというものがあると思います。人間中心主義ですね。コンサルなのに、いわゆる「米国かぶれ」のコンサルとはかなり言うことが違っていて好感できます。「コンサルや金融は所詮社会の間接部門である」っていう自己認識とかね(笑)。機会があったら是非お話を伺いたいですね。

 僕は、世の中の経営理論や経営知識というものを知らなくていいということでは決してないと思います。もちろん思考の材料として知識は大切。ただ、あくまで材料。仕入れた知識は、一旦否定してみるべきものだと思います。意識的に仕入れた知識から距離を置き、盲従を避ける。そして、それらを組み合わせ、自分なりに思考し、試行錯誤し、自分で体系をくみ上げるべきものだと思います。これは技術開発でも同じで、人によっては、論文なんか読むな!といいます。これは、論文ばかり読んで、それに盲従するだけになるなら、そんなの読まずに自分で考え抜くほうがよほど大事だということです。まあ、実際には論文を一切読まずに技術開発など不可能ですがね。

筆者がソニーについて触れた部分は、「技術空洞」や、「本社六階」など他のソニー本と大体筋は会ってますね。本社の官僚化や、数値管理を入れたことによる活力の低下など。不思議なのは、「ソニーの遺伝子をもっとも受け継ぐのは技術者である」というのに、ソニー本を出してソニーについて饒舌に語るのはみな事務系の人たちばかりなんですね。なんでですかね。でも、なんだかんだ批判してても、ソニーに対して皆誇りや愛着が感じられるというのはなんともうらやましいですね。

うん。自分の生き方も背中を押されるような、いい本でした。

さて、冒頭の話ですが、なんで社長の話が心に響かないか。これは、この本でいうところの「優等生」っぽいからなんですね。うちの会社はまじめな「優等生」はとても多く、世間で話題になっている手法はすぐにあれこれと入れます。かつては「ベンチャー制度」、「成果主義」、社内公募制度、カンパニー制、ISO取得、そして、CSR、SOX法対応、環境経営、etcetc... もちろん、社外コンサルもよく入れて「構造改革」をやっています。でも、ここ10年以上、一向に会社が成長しないのは、結局経営者を含め皆一生懸命勉強はするんだけど、自分の頭で考え抜くということを、どこか手抜きしているからじゃないかと思います。この社長も、「ビジョン」や「理念」は会社をまとめるのに大事だね、という知識を仕入れ、一生懸命ビジョンを作ったんだと思いますが、なんだか空虚なのは、この会社が長い伝統で培ってきた風土のようなものをどこか否定しようとしているからじゃないでしょうか。確かにその「風土」が成長を阻害している部分もあるかもしれません。しかし、よくも悪くも会社の個性なわけで、そこを土台にしたシンプルな「理念」や「ビジョン」が大事なんじゃないでしょうか。

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2008年7月 1日 (火)

【技術参考書】アナログCMOS集積回路の設計 応用編  Behzad Razavi 著

Razaviの定番教科書の応用編です。

 アナログCMOS集積回路の設計  応用編 アナログCMOS集積回路の設計 応用編
販売元:TSUTAYA online
TSUTAYA onlineで詳細を確認する

こちらは、基礎編よりシステム寄りな内容が多く、フィードバックから始まり、オペアンプ、安定性と周波数補償、BGR、スイッチトキャパシタ、非線型性とミスマッチ、発振器、そしてPLLが主な内容となってます。あとは、デバイス物性やモデリングなどに関する言及ですね。

基礎編、応用編と内容をマスターすれば、アナログCMOS回路設計の基礎的な知識はほとんど習得できると思います。ただ、Razaviさんの専門柄か、PLL関係の内容は多いのに比べ、ADC/DACに関する内容はほとんどありません。それに、⊿Σのようなデジタルシステムも絡む信号処理技術は別の教科書で学ぶ必要があります。

ただ、この本では知識だけでなく、アナログCMOS回路を考えるときの洞察の仕方が学べます。なんどもなんどもページを開ける、名著といっていいでしょう。

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